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はあ、そりやもう、二人で

友吉  はあ、そりやもう、二人で、いつも話し合つてゐることですが、決して、さういふわけぢや御座いません。今度のことにつきましても、全くわたし共の心得違ひだつたといふことが、今になつてわかりましたやうな次第で……。それと申しますのが、今日、隊で、仲間の奴等が、一人残らず御主人の御伴をするといふことを聞きまして、わたくしもたうとう決心をいたしました。
数代  (突然顔を上げて、友吉を見つめる)
友吉  やつぱり、お伴をいたすことになりました。旦那からもお許しが出ました。なに、さう決まれば、なんでもありません。おい、数代、今云つた通り、おれも行くことになつたから、そのつもりで支度をしてくれ。
数代  (黙つて友吉の顔を見てゐる)
夫人  (数代の方に気を兼ねながら)さういふことは、なにかい、数やに相談しないで決めてしまつていゝの。
友吉  なあに、こんなことを、女房に相談するのが間違つてゐました。さあ、支度をしてくれ。
夫人  一体そりや、ほんとなの。それでよけれや、なんにも云ふことはないぢやないか。そいぢや、まあ、ゆつくり別れを惜しむといゝ。あたしは、その間に、お昼をすまして来るから……。(去る)
友吉  (すこしてれ臭さうに)どうして黙つてるんだい。おい、なんとか挨拶をしろよ。(間)おれは、どうしても行かなけりやならないんだ。いや、おれは行きたいんだ。なんにも云はずに、行かしてくれ、なあ、おい、数代、辛抱してくれ。
数代  (夫の顔を見るでもなく、眼を下に落すでもなく、ぼんやり遠くの方を見つめたまゝ、黙りこくつてゐる)
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